暁の空来

時間が許す限り楽しい事が書ければそれで良いかと?

燕子花の風景

燕子花の風景 第一話完結編

 

1.

皐月の季節、江戸の町は燕子花(かきつばた)の美しい花が咲き乱れ、町民たちの目を楽しませていた。

川沿いの船宿「三毛路」も、その花を楽しむ客で賑わっていた。

燕子花の青紫色の花が川面に映え、まるで絵画のような風景を作り出していた。

 


「ニャァ~ン、いらっしゃいませ。今日は特別な燕子花の宴をご用意しておりますニャ」

三毛路は猫なで声で客を迎えた。

 


八兵衛と定吉も、毎年恒例の燕子花の宴を楽しむためにこの店を訪れた。

「おう、三毛路。今日はいい天気だな。燕子花も見頃だ」

八兵衛が嬉しそうに言った。

「そうですニャ。お二人のために特等席をご用意しましたニャ」

三毛路は誇らしげに応えた。

 

2.

特等席は川沿いの桟敷に設けられており、燕子花の群生が目の前に広がる絶好の場所だった。

風に乗って甘い花の香りが漂う中、八兵衛と定吉は席に着き、早速酒を注文した。

 


「この景色は本当に素晴らしいな。三毛路、あんたのおかげで毎年ここで燕子花を楽しめるよ」

定吉が感謝の言葉を口にした。

「ありがとうございますニャ。皆さんが喜んでくれるのが私の一番の幸せですニャ」

三毛路は微笑んだ。

 


店内には燕子花を楽しむ人々の笑い声が響き渡り、賑やかな雰囲気に包まれていた。

三毛路は忙しそうに店内を回りながらも、客一人ひとりに心を配っていた。

 

3.

その日の午後、一人の若い娘が店にやって来た。

彼女の名はお梅と言い、最近この町に引っ越してきたばかりだった。

お梅はこの美しい燕子花の景色を見たくて、勇気を出して「三毛路」を訪れたのだ。

「ニャァ~ン、いらっしゃいませ。お一人ですかニャ?」

三毛路が優しく問いかけた。

 


「はい、そうです。燕子花がとても綺麗なので、一度見てみたくて」

お梅は少し恥ずかしそうに答えた。

「それは素晴らしいですニャ。どうぞこちらへ。特別なお席をご用意しますニャ」

三毛路はお梅を案内した。

 


お梅は三毛路の優しいもてなしに安心し、燕子花の美しさに心を奪われた。

彼女は初めての燕子花の宴を存分に楽しんだ。

 

4.

夕方になると、店内はさらに賑やかになり、客たちは燕子花の下で杯を交わしながら楽しんでいた。

三毛路はそんな中、お梅の席にも度々顔を出し、彼女との会話を楽しんだ。

 


「お梅さん、どうですか?この燕子花の景色は」

三毛路が尋ねた。

「本当に美しいです。こんなに素敵な場所で燕子花を楽しめるなんて、夢のようです」

お梅は感動した様子で答えた。

 


「それは良かったですニャ。皆さんが幸せな気持ちになれる場所にするのが、私の役目ですからニャ」

三毛路は満足げに微笑んだ。

 


その夜、客たちは燕子花の宴を楽しみながら、三毛路のもてなしを心から堪能していた。

燕子花の花びらが風に揺れる中、店は一層の賑わいを見せていた。

 

5.

夜も更け、燕子花の花が月明かりに照らされる中、客たちは名残惜しそうに店を後にした。

「三毛路、今日は本当にありがとう。来年もまたここで燕子花を楽しもうな」

八兵衛が感謝の言葉を残した。

「お待ちしておりますニャ。またいつでもお越しくださいニャ」

三毛路は笑顔で見送った。

 


お梅もまた、初めての燕子花の宴を心から楽しんだ。

「三毛路さん、今日は本当にありがとうございました。こんなに素敵な燕子花の宴ができて、感謝しています」

彼女は心からの感謝を述べた。

 


「こちらこそ、ありがとうございますニャ。お梅さんが楽しんでくれて、私も嬉しいですニャ」

三毛路は深くお辞儀をした。

 


こうして、燕子花の季節は過ぎていったが、船宿「三毛路」はその美しい思い出と共に、人々の心に深く刻まれた。

三毛路のもてなしと温かい心が、この場所を特別なものにしていた。

人々はまた、この船宿を訪れ、三毛路と楽しいひと時を過ごすことを楽しみにしていた。

 


「ニャァ~ン、またのお越しをお待ちしておりますニャ」。

船宿「三毛路」は、今日も変わらず、温かい光に包まれていた。

次回「居酒屋猫家族の一日」第一話 お楽しみに!!