第一話:父親猫が残したデコレーション 第二章
第二章
東京の冷凍工場で荷卸しを終えて戻ると、アイリンは自分の職場「マメ吉急送運輸鮮魚部」へと向かった。
千葉の田舎町に位置するこの運輸会社は、デコトラを20台所有する大きな会社だ。
マメ吉社長は自らも「疾風丸」というデコトラを運転する、情熱的で面倒見の良い人物だ。
その面倒見が良い事が後々、会社に暗雲が圧し掛かって来る事は誰も予想だにしなかった。
「ただいまニャン!」
アイリンは元気よく事務所の門をくぐった。
マメ吉社長がすぐに駆け寄ってきた。
「おかえり、アイリンちゃん。市場はどうだったかい?」
「市場でちょっとした事故があったけど、みんなで協力して解決したニャン!」
アイリンは嬉しそうに報告した。
「それは大変だったね。でも、アイリンちゃんがいるなら安心だニャン!」
マメ吉社長は笑顔で答えた。
マメ吉社長はアイリンに労いの言葉をかけた。
「今日はよく頑張ったニャン。明日も気をつけてな。」
その言葉に、アイリンは元気を取り戻した。
アイリンの父親猫もかつてこの会社で働いていた。
彼は長年娘猫の名前を付けた「アイリン丸」というデコトラを運転し、数々の実績を積み上げてきた。
定年退職後、そのデコトラはアイリンに継がれ、彼女が新たなドライバーとなったのだ。
アイリン丸は11トンの保冷車デコトラ仕様で、電動ローラーが付いているため、荷物の積み降ろしが非常に楽だ。
彼女はこのトラックに強い愛着を持ち、毎日のメンテナンスを欠かさない。
「今日は何の仕事があるニャン?」
アイリンは社長に尋ねた。
「今日は新しい依頼が来てるよ。地元の漁協組合からだ。彼らが新鮮な魚を八戸市場に届けるための特別な配送が必要なんだ。」
マメ吉社長は依頼書を手渡した。
「了解したニャン!すぐに準備に取り掛かるニャン!」
アイリンは意気込んで整備工場で次の準備を始めた。
整備工場内には他のドライバーたちもいて、皆が忙しそうに働いていた。
マメ吉急送運輸鮮魚部は、関東トラック連合「十匹会」に所属しており、全国のデコトラ仲間と連携している。
連合内での評判も高く、頼りにされている存在だ。
アイリンは自分の作業台に向かい、アイリン丸の点検を始めた。
タイヤの空気圧、エンジンオイル、冷却システムなど、一つ一つ丁寧に確認していく。
「アイリン、これ見てニャン!」
隣の作業台にいる同僚が、新しいデコレーションパーツ〖星形ネオマーカー〗を見せてくれた。
「わぁ、素敵なデザインニャン!これ、どこで手に入れたの?」
アイリンは興味津々で尋ねた。
「最近入荷したばかりだよ。君のトラックにも似合いそうだね。」
「そうかニャン、ありがとう!後で試してみるニャン!」
アイリンは微笑み、再び作業に取り掛かった。
その時、マメ吉社長が再び現れた。
「アイリンちゃん、少し話があるんだが、いいかい?」
「もちろんニャン。」
アイリンは作業を中断し、社長の方を向いた。
「実は、倉庫を片付けていたらアイリンのお父さん猫が、昔使っていた古いデコレーションパーツが見つかったんだ。もし興味があるなら、これを使ってアイリン丸をさらに素敵にすることができると思ってね。」
社長は古いデコレーションパーツを手渡した。
「これは…!お父さん猫が大切にしていたものニャン!ありがとうございます、社長!」
アイリンは感激し、お父さん猫の思い出が蘇った。
「君なら、きっと素晴らしいデザインに仕上げてくれると信じてるよ。頑張ってね。」
「はいニャン!絶対に素敵に仕上げるニャン!」
アイリンは決意を新たにし、お父さん猫の思い出を大切にしながら、新しいデザインを考え始めた。
次回 第三章 お楽しみに!!